雑学・コラム 石川県

2024.4.25 更新

【ふくべ鍛冶】能登半島復興の先駆けとして、奥能登から野鍛冶技術を全国へ

包丁の仕上がりを確認する干場さん

開業から115 年の歴史を持つ「ふくべ鍛冶」は野鍛冶(のかじ)として刃物だけでなく、地域の農具や漁具の製造・修理も手がけてきました。
2024年1月1日「令和6年能登半島地震」が発生し大きな影響が出ました。
従業員も多くの方が被災し会社としては万全の体制ではない中、それでも「誰かの役に立ちたい」といち早く事業を再開し、会社や地域の復興を目指す4代目の干場さんにお話をお伺いしました。

地震の影響

工場前の道路が地割れにより陥没
震災後の工場の様子

地震の影響により「ふくべ鍛冶」の店舗や工場、倉庫に亀裂や段差が発生しました。
工場の前の道路は地割れにより陥没し、工場内は機械設備が倒れ破損するなどの直接的な被害を受けました。「ふくべ鍛冶」のある石川県鳳珠郡能登町全域で地割れや陥没、家屋の倒壊などの大きな被害が発生。停電や断水、物流のストップなど間接的な影響も発生しています。

前面の道路も破損している

震災直後は職人が思うように工場に集まれなくなり、製造工程が分断されることによって製品の完成やサービスの提供ができない状態が続きました。
会社も従業員も大変な状況で干場さんは店舗を休業し、職人に休んでもらうことを考えたそうです。

従業員の支えと事業再開の決意

干場さんと会社を支える従業員の方(震災前)

被災した熟練の職人が、「家や避難所でじっとしているより、包丁を研いでいた方が前向きになれる。仕事を続けたい。」という言葉を口にしました。
自宅が全壊、半壊、一部損壊している中、避難施設から職場に来て会社の復旧のため尽力してくれている職人もいます。干場さんはこのまま復旧まで待つのではなく、今できることから始めようと事業の再開を決意しました。

包丁を研いでいる干場さん

干場さんは言います。
「能登の伝統的な産業や、技術者を道具から支える役割が鍛冶屋にはあります。
鍛冶屋の役割を全うすることが地域に根付く様々な産業を助け、従業員や会社に存在意義を与えてくれる。どんな状況であっても職人の技術やノウハウの活用を止めてはならない。技術さえあれば、復興できる。」そう信じて、「ふくべ鍛冶」は日々、地域やお客様を想い、仕事に向き合っています。

野鍛冶技術の継承

牡蠣専用のカキ開け
サザエの身を出すための特殊な器具

奥能登は農林水産業や伝統産業が主幹産業です。
「野鍛冶」は、奥能登の農林水産業、伝統産業・文化を支える職人の手元となる道具を製造・修理し、地域の産業を支えている側面があります。水産加工業者が使う包丁や貝開け、定置網用のロープを切る刃物、加賀鳶はしご登りに使う特殊釘、牛の爪切り、囲炉裏のわたし、火箸、珪藻土コンロを整形する槍、和ろうそくの燭台など数100種類の道具を供給しています。

技術用の高さを表す刃紋(包丁)

「ふくべ鍛冶」では、家庭で普段使われる包丁やナイフなども高い技術で製作しています。また全国的に野鍛冶が減少する中で、全国各地の伝統産業・文化を支える職人の方々からの特殊な依頼にも対応しています。数少ない野鍛冶の技術を継承していくことで、日本の大切な文化や産業を守っていくことができると干場さんは考えています。

野鍛冶の本質は修理・修繕にあると干場さんは考えており、包丁研ぎや道具の修理に力を入れています。道具を使い捨てるのではなく、長期的に利用することで限りのある資源の有効利用を目指します。
包丁研ぎも全国からオンラインで受付しており、「ポチスパ」という商品では自宅から包丁を郵送し包丁研ぎを受けられるという画期的なサービスも展開しています。
干場さんは、鍛冶屋として誰かの役に立つことが地域の活性化と野鍛冶技術の継承に繋がっていくと信じています。

基本情報

※掲載されている情報は、時間の経過により実際と異なる場合があります。

記事作成者:COREZO