雑学・コラム 石川県

2024.5.13 更新

北陸のワイナリー巡りの旅(6) 海のワインと土地を育むITAYA Farm in石川県羽咋市(はくいし)~

ロゴ写真
ブドウ畑

“北陸のいいモノ・コトを発掘する”COREZOでは、北陸のワイナリーを紹介しています。
第6回目の訪問先は、石川県羽咋市(はくいし)にあるITAYAファームです。

羽咋市には全長8㎞の砂浜があります。千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイという名前で、世界でも珍しく、車で走ることができる砂浜です。
バイクや乗用車だけでなく、大型観光バスも砂浜を疾走します。
そんなのアリ?と思うかもしれませんが、禁止されていません。
そんな不思議な砂浜と水平に走るのと里山街道があり、その道路を超えた砂浜とは反対側にあるのがITAYAファームです。

海岸

コロナ禍の2020年8月に第二のココ・ファームを目指して開業したITAYAファームは、2021年3月にブドウ畑に苗を植えたところから始まっています。
代表を務める藤島さんは、障がい者の就労支援の事務所を立ち上げて運営していた方です。
元々は病院で作業療法士としてリハビリを手伝う仕事をしていたところ、入院していない障がい者の人への支援も大事だと考えて、就労支援の事業所を立ち上げておられます。
なぜワイナリーか?ということから、順に追っていきましょう。

人物

障害福祉サービス等の事業所については、福祉・介護職員の処遇もさることながら、事業所で働く障がいをもつ人たちの所得が低いことも問題のひとつとして挙げられます。
藤島さんから聞いた話では、障がいを持つ人の平均収入は低く、福祉として自立していないとのことです。ですが、栃木県にあるココ・ファーム・ワイナリーで働く障がい者の人たちは全国平均の3倍近い収入を得ているそうです。

ITAYAファームが目指すココ・ファームについて、少しだけ紹介します。
栃木県足利市にある「こころみ学園」という知的障害者向けの施設があります。
この施設がブドウと椎茸の栽培をはじめたのは今から50年以上前です。その後、1980年代半ばにココ・ファーム・ワイナリーとして醸造をはじめ、ワインを造りはじめます。障がい者の施設とはいえ、ココ・ファーム・ワイナリーが目指すワインは本格的で、まだ日本にワイナリーが少なかった頃から、革新的な取り組みをします(詳しくは「こころみ学園とココ・ファーム・ワイナリーの年表 https://cocowine.com/vineyard_winery/kokoromi/kokoromi_history/をご覧ください」。)ココ・ファーム・ワイナリーがワイン好きな人たちに広く認識されているのは、1999年に来日したブルース・ガットラヴさんの影響も大きいと思います。今は北海道でワイン造りをしているブルースさんは、日本のワイン産業の発展に大きな役割を果たしている人物です。

ぶどう

石川県内はもちろん、愛知県や東京都で就労支援の事務所を立ち上げてきた藤島さんは、障がい者の就労支援を福祉として自立させるためには、自分たちで仕事を立ち上げる必要があると思っていたところに、ココ・ファームに出会いました。
ワイナリーが軌道に乗れば、福祉と紐づけできると考えたのです。そこからの奮起には目を見張るものがあります。

看板
ブドウ畑

長期にわたり耕作放棄地だった海沿いの土地をブドウ畑にすべく、奮闘します。田畑を持っている人ならわかると思いますが、耕作地をひと夏でも放置すると、恐ろしく荒れてしまいます。
雑草が生い茂り、作物と雑草の見分けがつかなくなり、雑草が伸び放題になると足を踏み入れることもできなくなり、作物の収穫も不可能となります。
ネットや柵に蔦が絡まり、クモの巣がキラキラと輝き色鮮やかな大きなクモが陣取るだけでなく、うごめく虫にも悲鳴をあげる・・・そんな状況となってしまうのです。何年も放棄されると、木も伸びてきて、ますます手が付けられなくなります。

畑の開墾

ITAYAファームは、そんな場所を畑にすることから始まりました。
草を刈り、木を伐採し、伐根するという作業です。
海岸からさほど離れていない土地ですので、土壌は砂質で、やせた土地です。やせた土壌はブドウの樹が養分を求めて地中深く根を張るため、ミネラル分などの栄養を得ることができ、凝縮された味わいのブドウが育つとされています。

ブドウ畑
看板

ブドウに良いとされるやせた良い土地ではありますが、微生物が住む環境も大事だということで、土づくりを大事にするという観点から堆肥もまかれています。
殺虫剤などは極力使わず、ブドウが栽培されています。
2021年3月に1haの畑にブドウの苗を植え、22年秋にはテスト収穫として160kgを収穫しています。
このブドウから造られたワインは瓶内二次発酵のロゼワインで「海のロゼペティアン2022」という名前がつけられました。
残念ながら、在庫がなく、試飲 はできていないのですが、2023年秋は3トン近い収量でしたので、今後のワインが楽しみです。」



案内図
海とワイン

2023年に畑の面積は1ha増えましたので、2025年からは収量も増える見込みです。
海近くのワイナリーですので、出来上がったワインにはミネラル分が強く感じられるそうです。
ソムリエさんのコメントではミネラル分のインパクトが強いそうで、地元でとれる天然の岩牡蠣など、牡蠣との相性はとても良さそうです。

ブドウ畑

私たちが訪問した時は、収穫も終わった秋の午後でした。取材をしている間に日が傾き、夕方近くになりました。
最後に案内してもらったのは、入手を計画しているという、少し高台にある土地でした。ブドウ畑を見下ろす土地からは、千里浜なぎさドライブウェイの向こうに広がる日本海も見渡せました。
この場所には醸造所とショップのほか、就労支援施設や宿泊施設を建設したいという夢も語ってもらいました。お話を聞きながら見た夕日は輝いて見えました。
能登半島の玄関口にある石川県羽咋市にあるITAYAファームは、これからの成長が楽しみなワイナリーです。
苗木のオーナー制度があり、オーナーになると農作業やイベントに参加したり、出来上がったワインを受け取ることもできます。
興味のある方は入会のご連絡をお願いします。

2024年1月に発生した能登半島地震でITAYAファームの畑には大きな被害はなかったものの、ところどころに亀裂が入り地面が隆起した箇所あったそうです。
一日も早い復興を祈ります。
失われたものを超えて、新しい希望が芽生えることを願います。

夕暮れ
基本情報
  • お問い合わせ先

    090-6819-5203
    [email protected]

  • 公式サイト ※外部サイトに遷移します

  • 住所

    葡萄農園:石川県羽咋市粟生町  

  • アクセス

    のと里山街道千里浜ICより車で12分

ライター紹介写真

※掲載されている情報は、時間の経過により実際と異なる場合があります。

記事作成者:COREZO